宗教学・心理学・経済学において 「自立」とは?
大学では日々文系から理系まで、さまざまな学問分野の研究が行われている。では、それらの学問はそれぞれ一体どのような研究をしているのか、どのような違いがあるのか。心理学、宗教学、経済学の3つの学問分野の特徴を比較しながら、「自立とは」というテーマに迫る。
文学研究科 宗教学専攻
阿部友紀 助教
(写真撮影時のみマスクを外しています。)
自分だけでなく周囲に認められること
阿部友紀 助教
(写真撮影時のみマスクを外しています。)
―宗教学とはどのような学問か
宗教学は様々な分野に分かれています。そのうち私の専門である宗教民俗学は、宗教や信仰がどのように信じられ、実践されてきたかを考察することで、日本文化、生活習慣、社会を理解することを目的とする学問です。
ー自立とは
ここでは「自立すること」を「一人前になること」と定義しましょう。すると、宗教民族学における自立は、「社会で生き、貢献するための能力、責任、義務を備えているということを、所属する社会や共同体で認められること」だと言えます。
共同体で自立を認められるには「年齢」と「能力」という二つの条件を満たすことが必要になります。かつては一定の年齢に達した上で、共同体で求められる能力があることを、通過儀礼を経ることで証明していました。今ではレジャーとして親しまれているバンジージャンプも、バヌアツという国で行われていた成人儀礼を起源としています。一種の試練の試練ともいえる儀礼を通して自身の成長を示していたのです。
自立は自分だけが認めるのではなく、周囲に認められる必要があるものだと言えるでしょう。
文学研究科 心理学専攻分野 辻本昌弘教授 |
「自立」の定義を具体的に問い直す必要性
―心理学とはどのような学問か
心理学はさまざまなデータをもとに心の働きや行動を解明する学問です。実験、質問紙調査、インタビュー、フィールドワークなどを駆使し心と行動の関係を分析します。
―自立とは
心理学は実際のデータを分析し問題解決を図る学問です。「自立とは」という問いに答えるには、まず「自立」とは具体的に何を指すのか、いかなる事態を指すのか、明確にしなければなりません。「経済的自立」「精神的自立」などの言葉をよく耳にします。一口に自立といっても、さまざまなものがありそうです。それらが具体的にどういうことなのか。理解したつもりになっている概念を厳密に捉え直し、具体的な次元に下ろしたうえで、データをもとに考える。心理学ではそのように事象を処理して考える必要があるのです。
学問では既成の通念を問い直していく姿勢が重要となります。「自立とは」という問いに対してすぐに答えを出すことは困難ですが、おのおのが自立について根本的に考え直し、データや事例を集め、他者との討論を通して答えを探し続ける必要があるでしょう。そうすることで、自分なりの自立が見えてくるのではないでしょうか。
東北大学大学院経済学研究科・経済学部経済経営学専攻 システム科学講座 鈴木賢一 教授 |
「合理的な判断」が出来るという周りの承認
―経済学とはどのような学問か
資源の配分にかかわる選択を中心として「人間」を捉えたときに、どんな現象が生じているのかを研究する学問分野です。経済学は分野が幅広く、歴史学的なアプローチをすることもあれば、統計的な手法をとることもあります。このように、文系的な側面も強いですが、理系的な側面もある学問分野です。
―自立とは
「自立している」とは、合理的な判断ができ、そのことを周りが認めていることだといえます。自立をただ「判断ができること」と定義すると、ギャンブルなどの不合理な行動をする人も自立しているといえそうですが、不合理な人は周りからの承認を得ることはできません。
では、自立するにはどうしたらよいか。これは「合理的な判断をするにはどうしたらよいか」という疑問に読み替えることができます。合理的な判断をするためには規範的立場からのアプローチが有効ですが、人間は判断のバイアスを免れることは難しく不合理な結果に至ることもあります。バイアスには自分では気づけないため、自分とは異質なさまざまな集団とコミュニケーションをとり、他人の目を通じた気づきを得ることが必要です。